音の記憶

written by Yumi Notohara

音楽の力?:ロンドンのヘンデル

ウェストミンスター寺院内のヘンデルの墓碑

『メルキュール・デザール』4月15日号の「イギリス探訪記」では、「音楽の力?:ロンドンのヘンデル」と題して書きました。

メイフェアにあるヘンデルの家(現在は休館中)

毎年恒例のヘンデル音楽祭の公演を取り上げながら、ロンドンにある捨子養育院とヘンデルの「メサイア」の関係などに触れています。

下記をクリックしてください。

mercuredesarts.com

研究論文「体験記にみる原爆の『音』」掲載のお知らせ

名古屋大学の紀要『JunCture : 超域的日本文化研究』第14号に寄稿しました。
タイトルは、「体験記にみる原爆の『音』」です。
 
今号の特集テーマが「音/声の文化史」とのことで投稿する運びとなりました。今回はこれまでのように作品を対象にしたものではなく、原爆の「音」に焦点を当てています。
 
ちなみに、今回考察の対象とした『原爆体験記』については、「占領政策により世に出せなかった」と前書きに書かれるとともに、「占領軍によって配布禁止に処された」と大江健三郎さんによるあとがきにもありますが、ワシントンのプランゲ文庫で確認してもらったところ、コレクションには無いとのことでした。プレスコードの実態については、今後さらなる調査が求められそうです。
 
なお、論文は下記よりダウンロードしてご覧いただけます。

「音楽は『戦い』をいかに表現してきたか」受講生発表レポートが紀要論文に

2021年度前期に私が2つの大学で行った講義「音楽は『戦い』をいかに表現してきたか」の中で、講義最終回で行われた受講生による発表(レポート)の一つが、名古屋大学の紀要『JunCture:超越的日本文化研究14』に掲載されました!

 

掲載されたのは、坂井威文さんによる発表内容で、坂井さんは信長貴富作曲《Fragments -特攻隊戦死者の手記による-》を取り上げ、「公」と「私」の視点 から作品を考察しています。

 

受講生による発表スライドのうち、優れたものについてはこのブログに以前掲載しましたが(下記参照)、そのスライドを見た紀要編集長の先生から坂井さんに「ぜひ寄稿してもらえないか」とのお誘いがあり、内容を加筆修正した上で見事に掲載の運びとなりました。

 

なお、坂井さんの論文は下記をクリックしてダウンロードすれば読むことができます。

https://nagoya.repo.nii.ac.jp/records/2005128

 

 

 

yumi-noto.hatenadiary.com

セント・オーバンズ大聖堂とロバート・フェアファクス

『メルキュール・デザール』3月15日号では、セント・オーバンズの街にある大聖堂と、そこでオルガニストを務めていたイギリス・ルネサンス初期を代表する作曲家、ロバート・フェアファクスについて書きました。

セント・オーバンズは、ロンドンの北西約30キロ余りに位置し、古代ローマ時代に建設されたというイギリス屈指の歴史をもつ街です。シンボルとなるのは、イギリスで最初に殉教したキリスト教徒と言われる聖アルバヌスの処刑の地に建つセント・オーバンズ大聖堂。8世紀末に建立されたようですが、現在の建物はその後、アングロ・サクソン時代、ノルマン時代と異なる建築様式が混合したものになっているとのことです。

小高い丘に聳えるセント・オーバンズ大聖堂

雪の日の大聖堂

大聖堂近くのポスト(クリスマス前)

なお、イギリスではクリスマス前の1ヶ月ほど、チャリティーの一環でポストの上に様々な手編みのオブジェが飾られていたのですが、大聖堂近くのポストでは、なんとこの聖堂を模した手編みの帽子が被せられていました。上記の写真は、イギリスが寒波に見舞われ大雪になった時に撮影したもの。雪が薄ら積もってとても素敵でした。

 

この大聖堂とフェアファクスに関する記事については、下記をご覧ください。

mercuredesarts.com

国立ホロコーストメモリアル博物館(ワシントン)

国立ホロコーストメモリアル博物館(ワシントン)
ワシントンでは、国立ホロコーストメモリアル博物館も訪れました。海外に行った際、時間があるときは戦争関連の博物館も訪れるようにしていますが、私がこれまで欧米で見た戦争博物館の中では、その展示方法・発信方法などが最も充実しているように思われました。何よりも感心したのは(この博物館のコンセプトの一つと思われますが)、「何故?」という問い、それを観覧者自身が抱き、その答えを各自が探し求めるような展示になっている点です。そのため、ホロコースト被害を紹介する前に、1つのフロア全体を使って、そこに至るまでの過程を徹底検証していました。むしろ、この世界史上稀に見る「残虐行為に至るまでの過程を展示する」博物館と言った方が正しいのかもしれません。
なかでも印象に残ったのは、「アメリカはどう向き合ったのか?」について追究している部門です。ナチスの台頭やその思想に対するアメリカ人の認識、避難民の受け入れに躊躇した背景など、当時のアメリカの反応について資料を使って検証し、「あの時もっとできることはなかったのか?」を考える仕組みになっていました。自国が起こしたことではないにもかかわらず、歴史的非道に対する自省と自己批判の潔さには感銘を受けました。しかも、こうした展示については、HP上で各種の動画として取り上げられており、実際に訪問できなくても観覧することができます。実際、私は帰りの飛行機の関係で2時間しか滞在できなかったため、帰宅後に改めて動画で確認するなどしました。下記は、その「アメリカの反応」部門を紹介するサイトです。他にもさまざまな観点から掘り下げたページを見ることができます。

展示の一つ「アメリカの反応」

www.ushmm.org

当館がとりわけ「教育」に力を入れていることは、こうした展示を見ても明らかですが、実際、朝10時の開館直後に行くと館内にはすでに大勢の人がおり、場所によっては見るのが難しいところもあるほどで、特に10〜20代の若者が非常に多いのが印象に残りました。原爆投下の是非についても、若い世代ほど疑問視する声が大きいと聞きますが、今後、そちらの検証も本格化していくのではないかと期待しています。

ホロコースト博物館の追悼祈念堂
その一方で、広島の平和記念資料館については、もっと改善する余地があるのではないかと思ってしまいます。もちろん資金面の違いはあるでしょうが、SNSなどの発信方法だけを見ても決して活発とは言えません。被害の実相を伝える、犠牲者を追悼するのは当然ですが(これらはホロコースト博物館においても重要な使命の一つであることは間違いありません)、そこに至るまでの過程(日本の戦前の行為も含めて)も検証し、今もなお続く核の脅威について徹底的に考えることのできる場であればと思います。願わくば、世界で最初の核兵器被害を検証し、今後に活かす場として、教育、研究、資料保管と展示を兼ねた総合的な施設にしてほしいものです。
私も少なからず関わってきた音楽資料(作品)については、著作権の関係もあって現地で直接アクセスするしかないのですが、あらゆる資料のデジタル化とその公開が進んでいる中で、その状態で良いのか。少なくとも、その収集と保管や公開方法などの方針についてはこれから何度も検討していく必要があるように思われます(下記は、広島平和記念資料館のデータベース検索サイト)。

hpmm-db.jp

プランゲ文庫

プランゲ文庫の入り口

プランゲ文庫を訪問しました。ワシントン近郊にあるメリーランド大学の図書館が所有するこのコレクションは、第二次世界大戦後の連合国軍占領下において、検閲目的のために集められた日本国内ほぼ全ての出版物からなるという貴重なものです。対象期間は1945年から1949年11月の約4年余りと長くはありませんが、戦時体制から戦後体制への一大転換期のメディア資料を網羅している点で、稀有なコレクションと言えるのではないでしょうか。

当コレクションの説明によれば、その数は

書籍71,000タイトル

雑誌13,800タイトル

新聞18,000タイトル

報道写真10,000枚

地図640枚

ポスター90枚

その他にも寄贈資料などがあり、例えば米軍関係者が所有していた日本各地の戦後の様子を写した写真資料などが遺族によって持ち込まれるなどの機会も最近は増えてきているそうです。同じ日本の写真でも、海外からの視点が入っている点では大変興味深いですね。

また、戦時中に建設され、終戦とともにGHQに接収された海軍館(東京)の所蔵資料も収められています。こちらはまだほとんど手付かずのようで、研究者による調査が待たれるところ、とのことでした。

海軍館旧蔵資料群

プランゲ文庫については、児童書や文学書、政治関係資料などのリスト化やデジタル化、研究は比較的進んでいるようですが、音楽については遅れているようです。今回の調査目的は、音楽に関する検閲の実態を把握するためのものでしたが、それらを今後精査していくことで、これまで気づかなかった興味深い点が浮かび上がってきそうです。

音楽関連図書群

 

なお、プランゲ文庫を閲覧するには、事前に当館への連絡が必要です。コレクションの内容やアクセス方法などについては、当館のサイトをご参照ください。

www.lib.umd.edu

 

 

 

 

 

「英国探訪記」続報

 

前回10月の投稿から久しぶりの投稿となりました。この4ヶ月の間に書いたものについては、少しずつアップしていきます。

 

とりあえず、毎月1回の予定で『メルキュール・デザール』に寄稿している「英国探訪記」の一覧を下記に掲載します。なお、2023年1月号は休載しました。

 

・②「伝統と幻想」『メルキュール・デザール』11月号

イギリス探訪記|(2)伝統と幻想|能登原由美 |

 

・③「戦死者を悼む」『メルキュール・デザール』12月号

イギリス探訪記|(3)戦死者を悼む|能登原由美 |

 

・④「ダンスタブルを訊ねて」『メルキュール・デザール』2月号

イギリス探訪記|(4)ダンスタブルを訊ねて|能登原由美 |

 

この「英国探訪記」は、今後、イギリスの作曲家(ルネサンスから近代まで)と演奏家(現在活躍中の人)に焦点を当てて書いていく予定です。

 

*本記事のトップにある写真は、20世紀初頭に活躍したイギリスの作曲家が幼少期を過ごした家の内部で、置いてあるピアノは、彼の最も有名な作品を作曲した際に使われたと言われるものです。その後ろにある肖像画に描かれたこの作曲家、誰だか分かりますか?