本の紹介〜田崎直美著『抵抗と適応のポリトナリテ』(アルテスパブリッシング、2022年)
一次資料の緻密な調査の上に論じられたもので、政治と音楽の一筋縄ではいかない入り組んだ関係性を見事に明らかにしてくれます。日本の戦時下から敗戦後にかけて見られた日本の音楽界の揺れに通じるものもあります。
ですが何よりも、 ウクライナ危機で揺れる欧米の音楽界を彷彿とさせるものがありました。
政治体制が激動する時代にあって、音楽は「芸術的価値」だけで生き延びることは難しい。個人の力では抵抗できない「時代の渦」はありますが、逆にいま、身の回りにある作品や演奏についての「評価」が、必ずしも「芸術的価値」のみからなされているわけではないということも、示しているように思えてなりません。
本の紹介『ショスタコーヴィチとスターリン』
ソロモン・ヴォルコフ著
亀山郁夫・梅津紀雄・前田和泉・古川哲訳
慶應義塾大学出版会 2018年
ロシアによるウクライナ侵攻には憤りと嘆きしかありませんが、そうした中で、改めて明らかになった「音楽の政治性」についてどのように向き合っていけば良いのでしょうか?
一つ明らかなのは、独裁者と音楽(家)の関係については単に、「プロパガンダ」あるいは逆に「政治の犠牲者」という構図に収められるものではないということです。ロシアにおける独裁者と音楽家の関係で真っ先に頭に浮かぶ「スターリンとショスタコーヴィチ」。その関係についてはこれまでにも様々に論じられてきましたが、この『ショスタコーヴィチとスターリン』は、その問いに答える手掛かりを与えてくれるように思います(訳者によるあとがきは、作曲家の評価をめぐるこれまでの経緯が簡潔にまとめられており参考になります)。本書についてのより詳しい紹介は、下記に書きました。
METライブビューイング テレンス・ブランチャード《Fire Shut Up in My Bones》
MET初の黒人作曲家として話題を呼んだテレンス・ブランチャードの《Fire Shut Up in My Bones》(ライブビューイング)のレビューを下記に寄稿しました(『Mercure des Arts』2月15日号)。題材的にも音楽的にも要素が多いので、見るたびごとに違う気づきがあるのではと思います。
下記をクリックすると読むことができます。
齊藤浩一「A.アヴラーモフ《汽笛交響曲》(1922)における『戦い』の表現について」
齋藤浩一「A.アヴラーモフ《汽笛交響曲》(1922)における『戦い』の表現について」
京都市立芸術大学3年の齊藤浩一さんによるプレゼンテーション「A.アヴラーモフ《汽笛交響曲》(1922)における『戦い』の表現について」。ロシア・アヴァンギャルドの作曲家、アヴラーモフの《汽笛交響曲》は、演奏規模からすると今後再演の可能性はないと思われる珍しい作品で、ロシア語の文献資料や演奏動画(You Tube)を交えた発表は、大いに興味を掻き立てられました(発表時間は10分と規定)。政治・社会的背景が色濃く反映された作品で、創作自体が「戦い」であったように私には感じられました。
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